以前、仏像彫刻は、他の伝統芸術の世界の例にたがわず、一子相伝的な制度のもとに、ごく一部の限られた人々のあいだにのみ、その技法が伝えられているにすぎませんでした。そのため、一般の人が仏像、仏画制作に親しむ機会は、ほとんど与えられていなかったのです。
松久朋琳、宗琳父子は、そんな閉鎖的な状態に疑問を抱き、技法と共に、その醍醐味をも広く人々に開放すべきと考えておりました。「一人一仏」─人間一人一人の、どなたの心の内にも仏さまが宿っていらっしゃる。その自身の仏性に出会う場を持っていただきたい。技量の上手、下手を競うのではなく、仏さまを彫り、描く愉しさに触れつつ、より多くの人々に、その至福の時間を知っていただければ─
そう念ずる朋琳、宗琳のもとに愛好者が集まりはじめ、やがて自然発生的に生まれたのが、宗教芸術院なのです。
宗教芸術院の各教室では、さまざまな年齢、職業の会員が集い、それぞれがご自分なりのペースで彫り、描いておられます。
指導にあたっては、朋琳、宗琳の設立したもうひとつの組織で、宗教芸術院の母体ともなった京都佛像彫刻研究所(現、松久宗琳佛所)で修業を積んだ内弟子、あるいは、宗教芸術院で学び、その技量と人格を認められた会員が、支部長、教室責任者として、皆さんにお教えしています。
毎年、秋に開かれる「仏教美術展」では、全国の会員の仏像仏画、そして截金作品が京都の会場で一堂に展観されます。発表会であると同時に、仏教美術展は、会員諸氏の親睦の時として、宗教芸術院での最も大切な行事となっています。
朋琳、宗琳の願いは、宗教芸術院の伸展により結実したといえるでしょう。その遺志は現在、院長の松久佳遊をはじめ、各地の支部長、そして会員の皆さんの一人一人に受け継がれています。
宗教芸術院は、仏像彫刻・仏画・截金への親愛と、その愉しさを共有する人々の「和」の場でもあるのです。
※1Fのみ随時お入りいただけます。
撮影や工房の見学はご遠慮いただいております。ご了承くださいませ。